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の句会で平成七年十二月に作句されたもの、後者ははるか東の豊橋で同じ十二月句会のものである。
短詩文芸の世界、たった十七音字でまとめねばならないので、着想が同じならこのような句も生まれてくるだろう。
河野裕子さん(歌人)の俳句に
神の山仏の山も眠りけり
の句がある。全く同じ句を作った二人の俳人は夢にもそんな句があるとは思わなかっただろう。また、四、五年前にも同じ句があった。三人三様の独創性のもとに句を作ったに違いない。しかし以前、どこかで読んだフレーズが潜在的にあって、それが無意識のうちに浮上して来たとも考えられる。言語表現の微妙不可思議なところといえよう。と、京都新聞「現代のことば」であげておられる。
ひんぬいた大根で道を教えられ
大根引大根で道を教えけり
片や柳多留初篇の句、片や小林一茶の俳句である。小林一茶は柳多留初篇よりあとの人、ひょっとすると柳多留の句が頭の中にあって俳句に作りかえられたのかとも思われる。
古池や蛙飛びこむ水の音
芭蕉翁ぽちゃんといふと立ちどまり
よくご存じの松尾芭蕉の句に対して後者はそれからヒントを得た川柳、こちらは柳多留七篇だから芭蕉翁の方が先であることがすぐわかる。句の内容からあきらかに川柳が芭蕉翁の句を借りて作られたものである。
盗作だ偽作だうんぬんは、受け入れ側の頭にまかさねば、たった十七音字にしぼった川柳が心配で作れないかもしれない。
似たような句はたくさん出てくるだろうが、どこからか借りてきたもの、盗んできたものでなく、自分が考えて作句したものであると言いきれるものなら、大いに作句して世論に訴えたらよいと思う。

 

川柳―量から質へ

田中正坊
「現代川柳は、大まかに見て三つのタイプに分類できるのではないかと思う。第一は、川柳結社が発行する柳誌に掲載され、あるいはその傘下の句会で発表される川柳で、一般に伝統川柳または本格川柳と称され、川柳界の主流をなしている。第二は、これに飽き足りず、新しい傾向を模索する少数派で、革新川柳あるいは詩性川柳と呼ばれている。
この二つは、ともに定期的に柳誌を発行、句会を開いて作品を発表することではかわりはなく、相互の交流もあっ

 

 

 

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